HSPとHSSが両立する理由をチクセントミハイのフロー体験と創造性という方面から理解する:その2

【もくじ】

その2のはじめに

その1から引き続き、yukiさんのブログ「いつも空が見えるから」より、「創造的な人がもつ複雑で多面的な人格の10の特徴―HSPや解離とのつながりを考察する」の記事を引用し、HSP/HSSに対する自分の感覚をまとめています。
susumu-akashi.com

その1はこちらです。
hsp-smile.hatenablog.com

複雑な性格と強い感受性の関係

チクセントミハイは創造的な人のもつ「複雑な性格」を10項目にまとめています。
その10番目に、次のような記載があります。

【最後に、創造的な人々はしばしば、開放性と感受性によって苦悩と苦痛、そして、多くの楽しさにさらされる。
彼らの苦悩は容易に理解できる。強い感受性は、私たちが通常感じない軽蔑や不安を引き起こす。(p82)】

この10番目にある「感受性の強さ」が、HSPの特性にあたるとyukiさんは考察しています。

つまり、精神疾患と芸術的感性は、原因と結果の関係にあるのではなく、何か別の共通する因子が、環境次第で良い面を反映したり、悪い面を反映したりするのでしょう。
そして、この共通する別の原因とは、マーク・ストランドが述べたような「感受性の強さ」だといえます。
 
それがプラスに出れば芸術的な感性として現れますし、マイナスに出れば周囲の環境に影響されすぎて、精神疾患として現れてしまうこともあるということです。
このような性質は、近年HSP(Highly Sensitive Person)として知られるようになった、遺伝的な感受性の強さとみなせるでしょう。


常々HSPが病気ではないと言っているのは、このようにHSP気質そのものは使い方次第で、とても良い能力として活用できるからです。

ただし、敏感なHSPゆえに、どうしても不調を感じること(対象)が多くなってしまうことは事実です。

敏感なHSPゆえに「不調が多い」ことと、不調が多いのは「HSPのせい」は似ているようで大きく違うと思っています。

自分はなにが原因で、どんな思考のクセで、HSP気質をマイナス方向に使っているか。
そのことにに気づくことが、HSPとうまくつきあうコツの最初の一歩だと、わたしが体験してきたことからも感じるところです。

しかし、チクセントミハイの言う極めて創造的な人たちの性質が、HSPという生まれつきの敏感さの概念にぴったり当てはまるかというと、わたしはそうではないと思います。
 
思い出してください。チクセントミハイは、「複雑な性格」を持つ極めて創造的な人たちについて、こう書いていました。
 
【心に留めておくべき重要なことは、これらの矛盾する特性―あるいは、矛盾するどのような特性であっても―を、通常、同一人物のなかに見出すことは困難だということである。(p86)】

HSPの人たちは確かに、大半の人よりも創造的です。
しかしチクセントミハイが挙げた人たちのようにエネルギッシュで多作だったり、行動力があったり、好奇心旺盛に次から次へと新しいものに手を出したりはしません。
 
(略)
 
極めて創造的な人たちが「感受性が強い」のは事実です。つまり、彼らはHSPの性質を有してはいます。
しかし単なるHSPではなく、もっと珍しい、もっと複雑なタイプの人たちである、と考えるのは理にかなっています。

創造的な人の「複雑な性格」という特性は、HSPだけではなく、HSPにもうひとつ特性が加えられた状態がいちばん近しいのではないか。

つまりHSSも持ち合わせている、HSP/HSSタイプの人が、チクセントミハイのいう創造的な人のもつ「複雑な性格」ではないかという考察が続きます。

yukiさんの記事では、10の特徴に対してHSPだけでは説明がつかない点など詳しく記載されています。

複雑な性格とHSP/HSS

彼はクリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学の中で、創造的な人たちの生まれつきの特徴として、「感受性の強さ」以外に、もうひとつ別の要素を挙げています。
 
(略)
 
チクセントミハイは、創造的な人たちが、幼少期から「感受性が強い」だけでなく、「並外れた好奇心」をも持ち合わせていることに気づきました。

このような性質は、心理学では新奇追求性と呼ばれます。
生まれつき新奇追求性の強い子どもは、HSPとは別の性質、新奇追求型(HNS:High Novelty Seeking)、あるいは刺激追求型(HSS:High Sensation Seeking)と呼ばれています。
 
敏感すぎてすぐ「恋」に動揺してしまうあなたへ。によると、HSPという概念を作った心理学者エレイン・アーロンは、HSSについて、こう説明しています。
 
【マービン・ズッカーマンは、この特徴についての研究の第一人者であり、HSSという言葉をつくった人である。
彼によればHSSは「変化に富み、新奇で複雑かつ激しい感覚刺激や経験を求め」、さらに「こういった経験を得るために肉体的、社会的、法的、経済的なリスクを負うことを好む」という。(p54)】

HSSは用心深いHSPと正反対とも言える特性ですが、ここで注目したいのは、正反対であるからといって、両立しないわけではない、ということです。
 
エレイン・アーロンはこう述べます。
 
【飽きっぽいので、新しいことに挑戦するというリスクをとりがちなHSSはHSPの対極にあるように思えるが、それは間違いである。敏感さと刺激追求は完全に独立した特徴なので、どちらかが強い、両方とも強い、あるいは両方とも弱いということがあり得るのだ。(p55)】
 
遺伝的な観点から見れば、「感受性の強さ」(HSP)はセロトニントランスポーター遺伝子の変異と、「並外れた好奇心」(HSS)はドーパミン受容体遺伝子の変異と関係している、生まれつきの性質なのでしょう。
 
それらはかたやリスクを避ける、かたやリスクを求めるという正反対の傾向ですが、異なる原因に基づいているため、一人の人物のなかに生まれつき同時に存在することがあるのです。


HSSの特徴だけみると、個人的にいちばん当てはまらないなと感じるのは「飽きる」ということです。
興味の対象が増えて、「いま一番興味があるもの」はアップデートされるけれど、一度好きになったものはずっと好きだし、「飽きた」という感覚はありません。

逆をいえば、仕事も趣味も、そもそも自分が飽きるようなものに最初から興味をもたないのだと思います。
そういうバランスがHSP/HSS的なのか、単なる性格なのかは、他にサンプルがないのでわからないけれども。

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HSP/HSSの特徴

それで、エレイン・アーロンは、HSPまたHSSという概念にそって人々を分類すると、4つのタイプに区別しうるとしています。
 
1:HSP/非HS【内省的で、静かな生活を好む。衝動的ではなく、あまり危険を冒したがらない。】
 
2:非HSP/HSS【好奇心に満ち、やる気があり、衝動的で、すぐに危険を冒し、すぐに退屈する。与えられた状況の繊細なことにあまり気づかないし、興味もない。】
 
3:非HSP/非HSS【それほど好奇心もなく、内省的でもない。あまり物事を考えることなく淡々と生活している。】
 
4:HSP/HSS【移り気である。HSPの敏感さとHSSの衝動性の両方をもつため、神経の高ぶりの最適レベルの範囲が狭い。つまりすぐに圧倒されるが、同時に飽きっぽい。新しい経験を求めるが、動揺したくないし、大きな危険は冒したくないのである。あるHSP/HSSによると、「いつもブレーキとアクセルの両方を踏んでいるような気がする」そうだ。(p57)】
 
もうおわかりと思いますが、この4つのタイプを見れば、チクセントミハイのいう創造的な人、「複雑な性格」の持ち主が、どこに当てはまるのかは、一目瞭然です。


「アクセルとブレーキを同時に踏んでいる」というフレーズが、まさに!これ!これなの!という衝撃でした。だから疲れるんですよ!とも言いたい。

気もちは「よっしゃー!いくぜー!」とアクセルを踏むのだけど、同時に慎重さと敏感さが「おきをつけてー!」とブレーキをかける。
自転車や車を運転する人なら、それをするとかなりの衝撃を受けるということは想像できますよね。

わたしが精神と身体を大きく壊したときは、まさにアクセルとブレーキを同時に踏んでいる自分の性質に気づかず、コントロールしないままに繰り返してしまっていたことも、大きな原因のひとつです。

複雑な性格を持つ創造的な人とは、間違いなく最後の4番目、HSP/HSSの人たちのことです。
敏感さと衝動性を両方持っていて、内向的であると同時に外向的でもあり、あたかもアクセルとブレーキを同時に踏んでいるかのような珍しいタイプです。
 
HSPや内向型人間についての書籍は、ここ数年、よく見かけるようになりましたが、HSP/HSSという珍しいタイプについては、それらの本の中でさえ、おまけのようにしか扱われていません。
 
多くの人が共感しやすいと感じるほど、取り立てて一般的なものではない、ということからしても、HSP/HSSは、チクセントミハイが言う「通常、同一人物のなかに見出すことは困難」な特性とよく合致しています。

HSPとHSSの両方が強いとどうなる?

エレイン・アーロンは、HSP傾向とHSS傾向の両方が強い人の特徴について、さらにこう説明しています。
 
【HSP/HSSは、自分の神経の高ぶりの最適レベルを見極める特別な助けが必要である。
こういう人はすぐに退屈するし、すぐに圧倒される。外出するか家にいるか、もっといろいろなことに手を出すべきか、出さざるべきかで悩むことが多いだろう。
これは非HSPのようになろうとするができない、という悩みではなく、むしろ自分の基本的な仕組みからくる「内なる葛藤」である。(p61)】
 
HSP/HSSの人は、外向性と内向性、新奇追求性と用心深さのような、あまりに両極端の性質を抱え持っているため、自分の基本的な仕組みからくる「内なる葛藤」に悩まされます。
そして、「神経の高ぶりの最適レベルを見極める」のに苦労します。


日々、常に「内なる葛藤」とともにある、といっても過言ではありません。
やる気・意欲・向上心、踏みたいアクセルはたくさんある。だけど踏みすぎると刺激に敏感な身体は、それに100%はついていけない。

押すか、引くか。乗るか、反るか。
それでも自分をコントロールするようになってからは、判断基準がより明確になりました。

じぶんにやさしく。

自分をコントロールできるようになってきた実感というのは、「内なる葛藤」と「神経の高ぶりの最適レベルを見極める」という部分で実感しやすい気がします。

これは、チクセントミハイが91人のインタビューから見いだした1つ目の傾向、すなわちエネルギッシュでありながら疲れやすいことと一致します。
 
チクセントミハイによれば、創造的な人たちは、子ども時代には体調が優れず、大人になって自分に最適な生活リズムを身に着けることで、創造性を活かせるようになる場合があるとのことでした。
 
それはすなわちHSP/HSSという生まれ持ったアクセルとブレーキを同時に踏んでいる荒馬のような気質を乗りこなすのに試行錯誤の期間を要するせいでしょう。

HSP/HSSの不利な点

エレイン・アーロンは、さらにこうも述べています。
 
【HSP/HSSの不利な点は、外的な力と、自分の中にある相容れないふたつの気質が引き起こす内的な葛藤の両方に引きずられ、スーパーマンやスーパーウーマンになろうとがんばってしまうことだ。
そのため体が悲鳴を上げるまで、敏感な側面は無視されてしまう。
ここで重要な警告をしておこう。HSP/HSSも、神経の高ぶりすぎや疲労感を経験するのだ。
HSSであるがゆえに、社会のいう理想型に近づけるような気になるかもしれないが、身の丈に合わないジェンダー・ステレオタイプを自分に押しつけてはいけない。(p86)】
 
自分の中にある相容れない気質からくる、内なる葛藤を乗り越えるには、「社会のいう理想型」や「身の丈に合わないジェンダー・ステレオタイプ」を自分に押しつけないことを学んでいく必要があります。
 
チクセントミハイがインタビューした91人の創造的な人たちは、このプロセスをすでに乗り越えて創造的な業績を挙げていたので、自分のリズムを守り、空気を読むときもあれば読まないときもあり、文化的影響に流されず、ジェンダーフリーに見えたのです。


重要なのは、創造的な業績を「あげたいならばこうしろ」ということではなく、創造的な業績をあげた人は「HSP/HSS気質のコントロールをうまくできていた」という点です。

両極端の気質を客観的に把握すること、そしてコントロールの重要性。

これらは創造的な分野で活躍するかどうかにかかわらず、HSP/HSSが楽しく日常をすごすために必要であることがわかります。

自分でも重要だと考え、常に頭においていることが、毎日の笑顔につながっているのだなと、あらためて認識でき嬉しかったです(^^)

もちろんコントロールをミスったりもしますが、それさえも日々勉強ですね。まだ気づいていない自分と出会えることを、これからも楽しみにしていきます。